2020.10.12

ドラマ「G線上のあなたと私」を見た。感想にはネタバレがあります。

大人のための音楽教室に通う、3人の生徒の物語。「もう大人だから何物にもなれない私たち」というナレーションが何度か入る。確かに、何物かになろうと思う人は、大人になってからバイオリンは習わないだろう。波瑠が演じる也映子は婚約者に振られ、会社も辞めて、講師の弾くG線上のアリアに惹かれて教室に入る。松下由樹演じる幸恵は専業主婦で同居している義母とそりがあわず、しかも夫が浮気。その浮気を見逃すのと引き換えに自分だけの時間を手に入れるため教室に通う。28歳と40代の2人は、居場所を求めて教室に来ている。何物にもなれないのは、全然悲しいことじゃない。ただ弾くのが楽しくて、うまくなるのが楽しくて、一緒に頑張れる仲間がいるって、いいことだなと思う。

もう一人の生徒、中川大志演じる理人は、2人とはちょっと事情が違う。それに未成年。この年齢も背景もばらばらの3人が、紆余曲折あって、仲良くなっていく。この3人に大きくかかわってくるのが、バイオリン講師の真於先生。演じる桜井ユキさんをこのドラマで初めて知ったんだけど、原作のいくえみ稜のマンガに出てきそうな線の細さ。繊細な外見で中身は強いという素敵な役。先生に八つ当たりのように愚痴る也映子に「だったらそう言えばいいんじゃないですか」と突き放すシーンはよかった。

也映子はめんどくさい役どころなんだけど、個人的に波瑠さんのイメージに合わないなと思ってしまった。松下由樹さんはさすがのうまさ。普通を演じられるってすごいこと。理人は理学療法士を目指して、これから就職して未来がある。也映子は転職が決まって新しい仕事を頑張って、恋愛もして、2人には大きな変化があった。幸恵は、自分にはそれがないことを分かっている。夫が浮気しても、義母の介護が必要になっても、娘が反抗期でも、自分はこの家を出ないとわかっている。家族の関係を続けるしかないとわかっている。だからこそ、バイオリン教室が大きな意味を持った。この教室に救われたと幸恵は言う。40代だけ大きな変化がない展開は、現実的と言えば現実的。折り合いをつけながら、家族と生きていく関係を選んだ幸恵は物語的にはきれいに収まっていたけど、どこかで40代も違う選択ができればいいなと思ってしまう自分がいる。でも、幸恵さんは也映子と理人の仲裁をしながらも、也映子とも理人とも2人の関係を築いて、人の話を聞けるし、的確なアドバイスできるし、辛いことも笑顔で乗り越えるし、めちゃめちゃできた人だった。自分より若い人と付き合うって、なかなか難しくて、自虐して相手を困らせたり、パワーバランスに無自覚でハラスメントやらかしたり、幸恵さんはそれがなくて、めちゃめちゃできた人だった。見習いたい。