2021.11.3

「おいしい家族」を見た。感想にはネタバレがあります。

燈花は東京で美容部員として働いているが、仕事も結婚生活も上手く行っていない。母親の法事で実家帰った燈花を迎えたのは、母親のワンピースを着た父、青治、青治と結婚するという和生、和夫の連れ子のダリア。弟の翠はサムザナというスリランカ人と結婚し、彼女は妊娠中。大勢で囲む食卓に燈花は戸惑いを隠せない。

ギャオで見つけて、あの映画館で上映してたなと、ポスターが貼ってあった場所を思い出して、それだけで見てみた。自分でも驚くくらいの号泣。青治も和生も、ゲイではなくて、利害が一致したから結婚(はできないから、和生が青治の養子になる)という選択をする。青治は妻を亡くした悲しみから、妻の格好をして、和生とダリアに料理を食べさせることで寂しさを埋める。福島で漁師をしていたけど、いろいろあって、心機一転、誰も知り合いのいない島で何でも屋を始めた和生。ダリアと二人で生きていくと決めても、不安で支えがほしかった。ただ利用し合ってるだけだ、結婚ってそういうもんじゃないと言う燈花に和生は、「結婚ってセックスとか恋とかなくてもいいんじゃないかな、愛があればいいんじゃないかな」と言う。このセリフで堰を切ったみたいに泣いてしまって、その後ずっと泣きながら見ていた。突然だけど「his」という映画の話をする。この作品は、ゲイである迅と、かつての恋人である渚と、渚の娘の空が田舎で暮らす。渚は迅と別れた後、結婚していたが離婚、空の養育権を争って裁判中だ。迅はゲイであることを隠していたが、渚と暮らすことで周囲にも認められていく。見終わった時は、こんなに優しい田舎があるかよ、都合よすぎじゃないと、思った。そのことを今は反省している。「おいしい家族」では、スカート姿でいる青治を島の人が普通に受け入れる。誰も後ろ指をささない。妻の法事も妻の喪服で出た青治を、妻の妹は「似あっているからいいんじゃないの」と言う。青治は高校の校長でスカート姿で登校する。その姿をうらやましいと思い、自分もしたい格好をしようと、スカートを履き、化粧をする男子生徒もいる。ラストは打掛の青治と紋付き袴の和生の結婚式だ。参列者は笑顔で祝福する。そう、この作品だって十分に都合がいい。男の校長がスカート履いて登校したら、大問題だ。炎上だ。でも、都合がよくて何が悪い。セックスも恋もない、愛だけの結婚があって何が悪い。それが祝福されて何が悪い。これは、今自分が見たかった物語だ。きっと、「his」を見た人の中にもそう思った人がいただろう。その時の自分を救ってくれる物語。