2020.11.14

旅行に行くときは本を必ず持っていく。一人なので、待ち時間や移動の時に読むし、旅先で古民家カフェや、老舗の喫茶店なんかをめぐるので、そのお店で読むのも楽しみ。一度、旅の途中で読み終わってしまい、帰りの飛行機読むものがないから、空港の本屋で買ったことがある。空港に本屋があるのは、なるほど、必要だなと思った。

おととし、名古屋に行ったときアガサ・クリスティーの「春にして君を離れ」を持って行った。この本は面白かった。名古屋といえばモーニングなので、ホテルは朝食なしプランにして、ホテルの近くをぷらぷらして、カフェを探してモーニングを楽しんだ。1軒はちょっと場違いなお店に入ってしまった。ホテルの近くに場外馬券場があったからか、入ったカフェはおじさんばかりで、新聞片手にラジオに耳を傾けていた。店長さんなのか男性が一人でやっていて、プリンもついていてうれしかった。たばこの煙は苦手だったけど、本は楽しんで読めた。

「春にして君を離れ」は、子育ての終わった女性が、旅の途中で足止めをくらってしまう。それまで自分は夫のため、子供のため、家族のために尽くしてきたけれど、本当に自分は、家族は幸せだったのかと人生を振り返る物語だ。ある事実に気がついた主人公は、最後こっちとあっち、どっちを選ぶのかとどきどきしている中、ある決断を下して終わる。アガサ・クリスティーは人生を旅に例えて、この本を書いたと聞いたことがある。途中で足止めをくらっても、必ず動き出す時が来る。天候不順で遅れていた列車が来たとき、主人公の旅、人生は再び動き出す。

読み終わった後、ある読書会でこの本を面白かったと紹介すると、聞いた人の多くが自分の人生の選択を聞かせてくれておもしろかった。ある人は、会社で契約内容を変えられて働く時間は変わらないのに給料を減らされたから辞めた。今は夫の稼ぎで食べているけど、仕事をしていないことに罪悪感があった。しばらく経ってあれは会社が間違っているんだから、私の決断は正しかったんだって思えるようになったと言っていた。ある人は、20年近く勤めた会社を辞めて前からやりたかったことのために資格を取った。楽しみで仕方がないと話してくれた。人にはそれぞれの選択がある。いろんな人生があるんだなと当たり前のことを思った。

人生が旅だとしたら、今停滞しているのも、必ず動き出すと、続きがあると、そう思う。