2020.11.17

ネットフリックスに3ヵ月ぶりに戻って来た。秘密の森の第2シーズンを見ようか、エノーラ・ホームズの事件簿見ようか、映画館で公開されて評判よかったシカゴ7見ようか、迷ったけど、マリエル・ヘラーが出ていると聞いたので、クイーンズ・ギャンビットを見始めた。感想にはネタバレがあります。

主人公のベスは、母親を亡くして施設に入る。なかなか施設になじめないでいる中、用務員がやっていたチェスに興味を惹かれる。ベスはチェスの才能を発揮していく。

ベスの養母アルマを演じるのがマリエル・ヘラー。この親子関係がちょっと不思議で、アルマが望んでベスを養子にしたように書かれているのに、最初はあまり関心がないように見える。ベスは施設にいたときの服と靴で学校に行って、同級生から笑われるんだけど、その服に気が付くのがベスに関心のなさそうな養父の方。夫に服を買ってやれと言われて、アルマはベスを連れてデパートに行くんだけど、買うのはバーゲンをしている、それまで着ていたのとあまり変わらない洋服で、同級生の多くが履いている靴も買ってもらえない。熱心に世話をする風はなく、だからといって大事にしていないわけではなく、ただベスはチェスの大会に出たいと強くは言えない。夫と別れてお金に困ったとき、ベスがチェスの賞金ことを口にして、アルマは学校を休ませてベスが大会に出ることに賛成する。一見、お金のためって見えて、賞金の10%を要求するんだけど、結果、この距離の取り方が2人にはよかったのかもしれないと思う。アルマはチェスのことには口出しをしない、ただ、ベスの不安を聞いて励ましてやる。アルマが亡くなった後、ベスが孤独とプレッシャーで酒におぼれていくとき、ああ、アルマがいてくれたらと思った。2人の男の子がベスを助けようとしてくれるんだけど、ベスはそれを拒絶してしまうんだよね、だから、ジョリーンの登場はめちゃめちゃ嬉しかったよ。

マリエル・ヘラーは映画監督もやっていて、今年はトム・ハンクス主演の「幸せへのまわり道」が公開された。トム・ハンクスが演じるのはフレッド・ロジャーズという実在の人物で、長年子ども番組の司会者をして、子どもたちから人気があった。私は、自分でもびっくりするくらい、この映画で泣いた。物語は、仕事でも父親との関係にも煮詰まっている新聞記者のロイドがフレッドを取材するところからはじまる。埋め草の原稿で、自分がするような仕事じゃないと思っているロイドは仕事に身が入らないが、フレッドはロイドが抱えている問題を話すよう促し、父親との関係という核心に触れる。最初は反発するロイドだが、徐々にフレッドに心を開いていく。見終わってから父親と和解する必要があったのかなとも思ったんだけど、見ている時は怖かった。フレッドは番組の中でパペットを使って子どもたちと対話をするという手法を用いるんだけど、それと同じことをロイドにもする。そのシーンが怖い。なぜ怖いかというと、どんなに強がっても、傷ついていないふりをしても、フレッドにぜーんぶ見抜かれているとそう感じて怖かった。

今年公開された「ミッドサマー」の感想で、セラピー映画だったという感想をちらほら見かけた。去年公開された「ロケットマン」でもそういう感想を目にした。私にとってはこの「幸せへのまわり道」がセラピー映画だったのかもしれない。セラピーという点から見ると、「ミッドサマー」は誰かと感情を共有すること、「ロケットマン」は誰が愛してくれなくても自分は自分を愛することができるということ、「幸せへのまわり道」はそのままの君でいいと認めてもらえること、かなと勝手に分析した。

ちなみに、映画の中でフレッドは誰に対しても公平で常に穏やかなんだけど、ラストシーンはフレッドの抱えている暗さが見えて、めちゃめちゃに怖かった。あのシーンで終わるなんて、マリエル・ヘラー、やるなって思った。