2023.5.23

黄金比の縁」読み終わった。感想にはネタバレあり。

理不尽な理由で会社の花形部署から人事部に異動となった田中。新卒採用の業務に就いた田中は、会社に復讐するためできない奴を二次面接に通そうとするが、できない奴を見極めるのは難しく断念。次に田中が思いついたのは、「顔の黄金比」を基に、数年以内に転職しそうな人材を採用することだった。

「顔の黄金比」というのは、おでこから眉毛までと、眉毛から鼻まで、鼻下から顎までが3等分。顔の横は細かいこと忘れたけど、5等分になっていること。こういうの、女性誌の化粧の特集とかでよく見るんだよね。私は中顔面が長いのが気になるので、それだと涙袋を作って、口角が上がるようなコンシーラーを入れるとか、チークの入れ方がこうとか、色々指導してくれる(雑誌が)。なぜ田中がこの黄金比と転職が結び付くと考えたかというと、黄金比の人の方が、顔が整っていて、顔が整っている方が自信のある人が多く、自信のある人の方が転職することに抵抗がない、ってこと。そしてこれが当たり、田中がこの採用を始めてから3年後、入社3年の離職率が大幅に上がる。

「ケチる貴方」に続いて、身体性とルッキズム、働く上での女性差別が盛り込まれていて、おもしろい。この会社の採用方針は、「男は学歴、女は英語」。同僚の一人は同じ大学出身の男性を採用しようとするし、もう一人の同僚は自分と似た協調性重視の学生を採用しようとする。そして田中は顔。新卒採用の内情が細かく書かれていて、結構いいかげんというか、でも、数百人と短期間で面接して内定出さないといけないから、そうなっても仕方ないのかなと思う。就活生で悩んでいる人は、これを読んだら少しは気が楽になるんじゃないかな。こんないい加減な理由で落とされたの?って、それなら自分を責める必要はなくなるはず。

とはいっても、就活で落とされるのはショックだし、思い詰めてしまう学生がいるもの事実。会社の内定式に、1次面接で落ちた学生がどうしても入社したいと突然訪ねてくる。同僚が「縁がなかった」と慰めるのを聞いて、田中は思う。縁と言えば、ふわっと丸く収まる気がするが、就活生に良くも悪くも影響を与えるようなジャッジを、不完全である自分たちがしているという事実を。田中は自分が学生をジャッジしていることに自覚的であろうと、「縁」という言葉を使わないことを決めている。

田中は黄金比の顔を持った優秀な人材を集めるため、それまで社員をモデルにしていた採用ポスターを、本物のモデルに替え、社内で作成、印刷していたパンフレットも外注して見栄えをよくした。その結果、応募者数が増え、最初は「見た目より中身だろう」と反対していた同僚も、賛成に回る。さらに、ホームページに海外での事案を掲載することで、就活生に海外で働ける夢を抱かせ、しかし、入社してすぐに海外の仕事はできないし、そもそも枠が多くはないからその仕事ができるか分からない。その落差で失望させて、優秀な新入社員を転職させようと目論む。田中が真面目でいろいろ提案して予算も通していくから、傍から見たら仕事できる人だなという印象なんだけど、目的は会社への復讐だからね、誰もそうは思わない。その差が面白い。

ある日の企業説明会で田中は、数年前に退職した役員に似た男子学生を見かける。その役員は官庁に転職し、そこの仕事を、田中の会社が受注していることを知る。そしてその男子学生は、建築業界では珍しい心理学部専攻で、話してみても会社や業界に興味を持っている様子がない。田中はこの男子学生が元役員の息子で、今回の受注と関係しているのではと調査を始める。田中の読みは的中。これが公になったら会社はそうとうなダメージを被る。上司に報告すべきか、それとも復讐のため男子学生を採用すべきか。田中は彼を採用する。なぜなら彼の顔が黄金比だからだ。そして、内定式で会ったら「ご縁がありましたね」と言おうと思っているところで終わる。

ここで、「縁」という言葉を使うのはなんでなんだろうと考えている。

市内の図書館から2冊、市外から2冊届いたって連絡があった。だから。しばらく届かなそうとなぜ先週の自分は思って、2冊借りてしまったのか。「日本の近代化と民衆思想」は諦める。あとがきと解説だけ読んで返却する。「フェミニズムレジリエンスの政治」もまた読もうと思って期間延長したけど、これも諦める。この2冊読み始めたとき、全然進まなくてストレスのせいだと思ったけど、違ったんだよね。本が難しくて自分の頭では読めなかっただけだった。

「アストリッドとラファエル」見た。やっぱり楽しい。ラファエルくらい図太くなりたい。検事に報告しないでことを勧めようとして、成功したら報告して、失敗したら黙っていればいいって言った直後、その検事に会ったら、今電話しようと思ってましたって、けろっと言う。しかも、その検事とは15年前に付き合っていて、付き合ってみたら違ったってさんざん言った後に、向こうから誘われて寄りを戻そうとしているし。コストは、もてそうだよね。アストリッドはガイアール局長との想い出多め。ショックだよね。ウィリアムが、「元気?」って聞いて、アストリッドが「自閉症にその挨拶は意味はありません」みたいに答えるんだけど、ウィリアムの「元気?」はただの挨拶でも、ただのやりとりでもなくて、「大丈夫?」って意味で、そのくらいアストリッドのこと心配しているんだね。