2021.5.10
「バッカス・レディ」を見た。感想にはネタバレがあります。
ソヨンはバッカス・レディとして客を取る。客から性病をうつされて受診した病院で、フィリンピン人女性が医者を刺す現場に遭遇。ひょんなことから、その女性の子、ミノの面倒を見ることになる。ある時ソヨンは常連だった金持ちの男性が寝たきりになっていると知り、見舞いに行く。
アカデミー賞で助演女優賞を獲得したユン・ヨジョン主演ということで見た。バッカスというのは滋養強壮剤で、それを売りながら客を取る高齢女性のことをバッカス・レディという。ソヨンは息子がアメリカに留学していて、その費用のためにこの仕事をしていると言うが、それが嘘だということが物語が進むにつれてわかってくる。ソヨンは米軍基地で仕事をしていた時期があり、そこで知り合った黒人と子どもをもうけた。しかし暴力を振るわれ、息子も1歳の時に養子に出していた。ソヨンのような境遇の女性が珍しいことではなく、また現代でもあるということは作品は書く。米軍基地で一緒に働いていた女性に偶然再会、彼女も当時付き合っていたアメリカ人とはうまくいかなかったと言う。また、フライドチキンの店で、自分は韓国人の母親と黒人のアメリカ人の父親とのハーフで、1歳のとき養子に出されたという軍人の男性に出会う。そして、ミノの存在。ミノはフィリピン人女性と韓国人の医者との間の子だが、医者は結婚して子どももいる。移民支援の団体職員の話からもミノのような境遇の子が多いことが分かる。だから、ソヨンはミノの世話をするのだろう。ソヨンの暮らすアパートは、性転換手術をした女性と、片足義足の男性が住む。世間に受け入れられない4人でご飯を食べたり、出かけたりというシーンはあるが、いわゆる疑似家族のような書かれ方はされず、彼らの存在がソヨンを一時慰めても、根本的な助けにはならないとう描写だ。
ソヨンは、かつての客を病院に見舞う。寝たきりのその男性は、生きている意味がないとソヨンにこぼす。息子はいるが、結婚してアメリカに住んでおり、めったに帰国せず、妻と子どもを連れて見舞いに来るがよそよそしい。息子の妻もソヨンに財産はあてにするなと言い放つ。ソヨンは彼が死ぬ手助けをする。それを知った同じく常連の男性客が、身寄りがない認知症男性(彼もかつての客)の元にソヨンを連れていく。ソヨンは3人で登山に行き、崖の上で彼の背中を押す。その常連客も妻も子も亡くし、自殺も考えたが一人で死ぬのは怖い、そばにいてほしいとホテルで大量の睡眠薬を飲んで自殺する。翌朝ソヨンはホテルを後にするが、ソヨンが金目当てで男性を殺したと警察に捕まってしまう。テレビで事件として報道されているのを知った時、ソヨンは動揺するが、捕まった時には本当のことを話すことなく、抵抗もせずに捕まる。あそこなら3食食べられる、おかずはなにかしら。ソヨンは刑務所で亡くなる。遺骨は誰にも引き取られることなく、無縁古と書かれ、他の遺骨とともに部屋に保管されている。
ソヨンの自らの幕の引き方の潔さが、男性たちとの対比で際立つ。男性たちはソヨンに甘えすぎていると思う。が、高齢になって身寄りもなくて年金も仕事もない上に病気になったらと、自分に重ね合わせると、ソヨンの潔さがいいのかわからなくなってきた。「生きるとか死ぬとか父親とか」のばあばの回のときも思ったんだけど、自分で私はここで死ぬと決めてそれまでの場所と食事を準備して、ばあばの場合はお金も用意して、というのは、理想だけど誰にでもできるものではない。でも、誰にも迷惑をかけてはいけない、準備する期間があったのにできていないのは自己責任という言葉にからめとられて、今からできないであろう自分を情けない奴だと責めてしまう。ばあばの回は本当にきつかった。見終わった時は、ソヨンの決断を潔くてかっこいいいとすら思ってしまったが、分からなくなってきた。2作品ともこう生きなさいと書いているわけではない。ソヨンとばあばの生き方として書かれていた。ただ、ソヨンが一人で生きて死んでいくのに、刑務所という選択肢しかないのは、おかしいなと考えてしまった。