2021.5.25

最近見た作品の感想。ネタバレあります。

「10月の奇跡」初めて見たペルー映画。主人公は金貸しのクレメンテ。独身で親しい友人もおらず、淡々と仕事をこなす毎日。ある日、家に赤ちゃんが置いていかれる。心当たりの娼婦を訪ねるがすでに引っ越いしていた。慣れない子守りにまいったクレメンテは、金を借りに来たソフィアを子守りとして雇う。乾いた映像、セリフの少ない作りと、なかなか好みの映画だった。クレメンテの人物造形もおもしろくて、金貸しといえばあくどかったり冷徹だったり、はたまた人情味にあふれていたりというキャラづけがされやすいけど、彼は仕事だから淡々とやってますって感じ。父親から仕事を引き継いだというのも、彼の態度に影響していそうだけど書かれていない。赤ちゃんが来たことで、ソフィア、ホームレスなど、一人だったクレメンテの周りに人が集まってくる。サムネが家族のように見えたんだけど、疑似家族にはならず、最後にはみんな出ていってしまうが、クレメンテの心情には変化が訪れているというラストがよかった。あと、赤ちゃんに気を取られてうっかり偽札をつかまされてしまい、その偽札がどうやっても自分の元から去ってくれない、手放しても戻ってくるというのが、何のメタファーなのか考えながら見るのが楽しかった。

「バービー」「私の少女」のキム・セロンが出ているので見た。知的障害の父親と妹スンジャと暮らすスニョン。生活は厳しく、スニョンは父親の面倒を見て、家事をし、民宿に来た客の対応もしている。ある日、叔父がアメリカ人のステーィブとその娘バービーを連れてやってくる。スニョンを養子にして共に渡米するというが、知的障害の父親を置いていけないスニョンは断り、代わりにスンジャを連れていってほしいと頼む。ツッコミどころが多くて、まず、バービー連れてくんなよ。スンジャは努力と根性の子で、この貧乏な暮らしから抜け出すと決めて、英語を勉強し、自分をアメリカに連れて行ってほしいとはっきりとアピールできるところがいい。正直、貧乏に耐え、家族のために犠牲になる女の子の物語には食傷気味なので、スンジャのたくましさがいい。キム・セロンの実妹、キム・アロンが演じているが、うまい。男に媚びているように見える演出で、バービーがこの子目が怖い、嫌いって嫌悪感を抱くのが納得の演技。スンジャが痩せるためにご飯食べないかと、民宿の客に媚びうってチップをもらうとか、アメリカに連れて行ってもらうためにスティーブに対する態度とか、まだ子どもなのにそういった術を身につけてしまっているのが悲しい。そうやったら、自分の望むものが手に入ったから、やるんだろうけど、それが彼女を危険にさらすのよ。誰か教えてあげて、守ってあげて。スニョンはスンジャがアメリカに行けば幸せになれると信じているが、実は養子ではなく、スティーブのもう一人の娘が心臓が悪く、その臓器移植のために女の子が必要だったのだ。何も知らずに無邪気に手を振るスンジャの姿で終わる。

「ヤバすぎファミリー 毎日がパラダイス」両親がマリファナ栽培を仕事にしていて、学校は洗脳されるからという理由で通わせてもらえないクインと妹。妹は薬の売人として生きているんだけど、クインは同世代の友達が欲しいと思い、また近所に越してきたクリスタルにひとめぼれし、彼女と同じ学校に通おうとする。親から教育の機会を奪われ、ネグレクトを受けている子どもがそこから逃れようとする話なんだけど、コメディタッチで重くならずに見られる。後半どんでん返しが待っていて、それも面白かった。ただ、学校に通い出したクインが、興味が外に広がっていく様子とかがあんまりなくて、自分のいる状況のヤバさに気が付くという描写がないのが残念。というか、クインは元々自分の家のヤバさに気が付いているからその部分は希薄なのかもしれないけど、自分の可能性に気が付いて欲しいというか、親から奪われていたものに改めて自覚的になってほしいというか、そういう描写があって、クインに未来を選んでほしかった。父親に言われるまま種を引き継いで商売を続けるのだと、結局逃れられていないことになると思う。