2021.10.3

「スワロウ」を見た。感想にはネタバレがあります。

若くして出世した夫、きれいで大きな家。人から見ればうらやましがられる結婚生活を送っているハンターだが、夫は忙しくほとんど家におらず、義父母からも蔑ろにされ、孤独を抱えていた。そんな中、タイラーの妊娠が分かる。喜ぶ夫と義父母だが、ハンターの孤独は深まるばかり。ふと、目に入ったビー玉を飲み込んでみたいという衝動にかられたハンター。実行してみると、得も言われぬ満足感を手に入れる。

ハンターが最初に物を口に入れるのは、氷だった。夫と義父母との食事の席で、夫に促されしたくもない話をしている時、義父に遮られ、まるでハンターがいないかのように3人が話で盛り上がる。その際中、タイラーの前にあるグラスに入った氷が、とても美しく画面に映る。惹かれるように氷を口に入れ、かみ砕くタイラー。その音のあまりの大きさに、3人の話が止まるというシーンがある。他にも山盛りのスナック菓子をばくばく食べているシーンもあり、異物を飲み込む前から、タイラーが食べ物を口にすることで、何かを解消しようとする様が描かれていた。

思い出したのが、先日最終回を迎えたテレビドラマ「うきわ」だ。このドラマは、社宅の隣の部屋に住む、門脇麦演じる麻衣子と、森山直太朗演じる二葉が、互いの配偶者がそれぞれ浮気していることに気が付き、その淋しさを埋めるように距離を縮めていくという話だ。麻衣子が夫の浮気に気が付いた後の食卓でのシーン。目の前で食事をする夫に何も聞けない麻衣子。その時麻衣子が持っているご飯茶碗の白米の上に、「浮気してるの?」と海苔でかたどられた文字が浮かぶ。麻衣子はそれをじっと見つめ、迷った挙句箸で口に運び、飲み下す。麻衣子が飲み込んだのは、ご飯だけではなく、「浮気してるの?」という質問だけではなく、麻衣子自身の気持ちもだ。

ビー玉に始まり、画鋲、電池と、どんどん危険なものまで飲み込んでいくタイラー。排泄したそれらを、ビニール手袋をした手を便器に突っ込んで拾い上げ、洗って、いとおしそうに眺めた後、きれいに並べておく。なぜなら、飲み込んだ異物はタイラーの言えなかった気持ちだからだ。それを確かめるように並べていく。そして、タイラーにとって最大の異物が、妊娠している子どもであることが明らかになる。

エコーの検査で異物が映り、夫や義母に行為がばれてしまったタイラーは、カウンセリングを受けさせられる。最初は抵抗していたが、ある時、自分は母親がレイプされてできた子どもだとカウンセラーに打ち明ける。カウンセラーはそのことを夫に報告。夫はすぐさま両親にちくって、タイラーは出産するまでという約束で施設に入れられることになる。タイラーは逃げる。母親に助けを求めるも断られ、行く当てのないタイラーは父親の元に向かう。タイラーの素性を知り、動揺する父親にタイラーは「私とあなたは違うと、あなたの口から聞きたい」と迫り、それが聞けると彼の元を去る。中絶のための薬を処方してもらい、一人、商業施設のフードコートで薬を飲むタイラー。次のシーンはトイレだ。便器から立ち上がるタイラー。その便器は血で染まっている。タイラーは最大の異物を自分の外に出したのだ。個室を出て、鏡の中の自分をじっと見つめ、軽く微笑むと、トイレから出ていくタイラー。エンドロールが流れる。カメラはタイラーが個室から出てきたときの画面で固定されている。実はタイラーが水を流す場面がなかったため、もしかしたらそのままになっているのかなと考えていたが、タイラーの使った個室に入った女性が何事もなく出てくるのを見て、流したんだと分かった。エンドロールの間中、固定されたカメラはずっとトイレの中を映している。それがぐっときた。個室に入る女、化粧直しをする女、手を洗う女、入れ替わり立ち代わり女性たちが入ってくる。それは日常の風景だ。トイレから出た先も、もっと多くの人が行き来している日常だ。その中にタイラーが戻って行ったんだと思うと、ぐっときた。