2021.1.24

「ひとり暮らしの戦後史-戦中世代の婦人たち-」読み終えた。本書は、敗戦から30年経った1975年に出版された。戦争で辛い思いをして、懸命に生きてきた人々の中で、あまり語られることのない、約100万人いると言われている独身女性について調査し、書かれたものである。戦争により多くの男性が兵隊にとられ犠牲になったので、当時10代から20代だった彼女たちは結婚相手に巡り合えずに生きてきた。本書は書く、結婚が女性にとって唯一の幸せではないし、結婚するしないは本人の選択に任されるべきだが、そもそも彼女たちは男性が少なかったため、「その選択を許さない状況が、戦争によってつくりだされた」と。ここまでが、はじめにの2ページ目。その後統計を示して、それを証明するが、ここだけ読んだだけで、衝撃だった。戦後の女性といえば、夫を亡くした戦争未亡人や、夫の帰りを待つ妻とか、多くの子供を育てる肝っ玉母さんとか、自分のイメージがいかに偏っていたかを実感した。あと、ベビーブームがあったから、多くの女性は結婚していると思い込んでいた。自分の考えの浅さにも衝撃を受けた。

当時は今以上に女性は嫁に行って男性に養ってもらい、女は子供を育てるという考え方が強くて、女性に対する教育はいわゆる花嫁修業で、しかも、彼女たちは戦争による勤労動員で教育の機会を奪われている。敗戦の大変な時期を、女性が一人で生きていくことがどんなに大変か。まず、男性が家族を養う、女性は若くして嫁に行くという考えのもとに賃金形態が考えられているから、女性の賃金が安い、住宅手当などが女性にだけつかない、昇給しない。昇級試験も男性だけが受けられて、女性が受けてもなにかと理由をつけて落とされる。46年前の本なのに、まるで今の問題を読んでいるみたいと思った。本書のインタビューに答える女性たちは、一様に将来への不安を口にする。賃金が安いということは、将来受け取る年金が少ないということに直結する。しかも、男女で定年の年齢に差が付けられ、女性の方が早く定年させられるため、就労期間も短くなる。それも年金額の少なさに直結する。一番大きな支出は、家賃だ。持ち家や、運よく家賃の低い公営住宅に入れればいいが、多くの女性は民間アパートで暮らしている。そもそも、独身の女性は公営住宅に申し込みができないらしい。長く働こうと思っても、男性は長く働けば管理職になって現場で体を動かすことも減る人も多いが、女性は管理職になれず現場で働き続けるため、年を取ると体を壊し働くことが出来ないという現実がある。

13人の独身女性のインタビューが載っている。全員がものすごい努力家でひたむきで、また、多くの人が母親を養って生きてきた。一つの会社で長く働き、必要な知識を自費で学び、資格を取り、会社に貢献するが、女だから給料は低いまま。将来のために満足な貯金もできない。親の老後、自分の老後が心配で、中には死ぬために青酸カリを用意しようと考えていると言う女性もいる。戦後の大変な時期を、こんなに懸命に生きてきたのに、どうして国は彼女たちを無視するんだろう。いないもとして扱うんだろう。制度が家族単位で考えられている。過去の出来事、他人事として読むことができなかった。今も問題が全然解決していない。大林美佐子さん(64)。昨年の11月、バス停に座っている所を、犯人に殴打された亡くなったホームレスの女性の名前だ。本書を読みながら、彼女の事件のことを思い出した。