2022.3.29

テーラー 人生の仕立て屋」を見た。主人公のニコスは、父の代から続く高級スーツの仕立て屋。しかし不況と顧客の激減で借金の返済ができず、店が差し押さえの危機に。父親はショックで倒れて入院。ニコスは屋台による移動式仕立て屋を思いつく。

ニコスは50歳独身男。長年高級スーツの仕立てをやってきたプライドがあると思いきや、店の形態にこだわらず屋台形式を始めるし、女性物に需要がありそうだと思えば、近所の女性に習ってワンピースやスカートを作り始めるし、ウエディングドレスの注文も引き受ける。中高年の男性のやり直しって、いままでの経験からくるプライドが邪魔してというのが定番な印象だけど、ニコスはあまり抵抗なく、今までやっていなかったことに挑戦したり、目の前のチャンスを手にする。ニコスは最初からいろんなことに挑戦したかったのかなとも思った。屋台を始めるのは、父親が入院した後。屋台を始めたことも、ウエディングドレスを作っていることも、なかなか父親に切り出せない。父親は長年高級スーツの仕立てをしてきたプライドや、息子が店を継いだことに対する誇りがあって、ニコスはなかなか言い出せなかったのだと思う。物語の冒頭、父親がもう亡くなった顧客のスーツの型をニコスに捨てろと言われても捨てないというシーンがある。その後、ニコスは様々な経験をして、その型を捨てるシーンがあって、そこが印象的。父親の縛りから解放された瞬間だと思った。

ニコスが今までの経験にこだわらず、できることからやっていく姿は見習うものがある。「お探し物は図書室まで」の中で、コマチさんは実際に探している本の他に、この人に必要だなと思う本を1冊書いてくれる。その1冊を、主人公たちは必ず手にする。ここだよなと思った。星占いで言われた「器の拡大」ってこういうことかも。私は自分の考えに固執しがちで、例えば本をえらぶこと1つとっても、自分が好きそうなものを選ぶし、人が教えてくれるのも、自分と趣味が合う人から言われたのを選ぶ。コマチさんに教えられた本を借りるかどうか分からない。ニコスやラジオドラマの主人公たちのように、目の前に差し出されたものに、とりあえず手を伸ばしてみることも必要なのかもしれない。でもな、映画とラジオドラマだから、それでうまくいくのであって、現実じゃあなあ、という思いが、ある。いろいろ失敗していると、あの失敗やらこの失敗やらが浮かんできて、伸ばすのをためらうし、こんなの求めてないとか思ってしまう。