2022.3.27

「わたしは贋作」を読んだ。感想にはネタバレがあります。

わたしは、画家。アカデミー卒業後、挫折もあったがようやく軌道に乗ってきた矢先、住居兼アトリエが火事にあってしまう。買い手が決まっていた作品も燃えてしまい、予定している展示会の日程もずらせない。追い詰められたわたしは、つてを頼りに芸術家集団、パイン・シティが所有するアトリエを借り、そこで誰にも知られずに絵を完成させることにする。パイン・シティとは5人の才能ある芸術家の集まり。誰もが憧れを抱く集団。わたしも彼らに憧れる一人で、特に彫刻家のケアリーに強い共感を抱き、目標にしてきたが、そのケアリーが彫刻からパフォーマンスアートに転向後、自殺してしまった。憶測だけが飛び交い、死の真相は分からないまま。

わたしは初めて訪れた憧れの聖地に、呆然とする。かつての輝きはなく、そこは寂れた土地。パイン・シティのメンバーたちも歓迎はしてくれない。だが、わたしが製作を行ううちに、次第にメンバーとも打ち解けていくが、ケアリーの話題になると誰もが口を閉ざしてしまう。

600ページ近くあったけど、あっという間に読めてしまった。ケアリーの死の真相を解くミステリーでもあるんだけど、訳者解説にもあるように、わたしの成長物語として読んだ方が断然楽しめると思う。これを最初からミステリーとして読むと、勘のいい人や、ミステリーを多く読んでいる人なら、多分早い段階でケアリーの死の真相に気が付くと思う。読み終わってから思い返すと、ヒントも多くちりばめられている。

芸術の世界で若い女性が活躍していくことの難しさとか、お金の問題とか、それがわたしの状況と絡めて書いてあって、読みやすいし分かりやすい。お仕事小説としても読めると思っていたら、著者のデビュー作はファッション業界が舞台と知り、そちらも読みたくなった。でも、翻訳されてないみたい。絵画を描くって、絵を描くだけじゃなくて、色を作るのに必要な知識とか、素材の扱い方とか、素材の性質とか、総合的な知識が必要とされるんだなと改めて思った。あと、体力いるのね。

マリアの存在は、ケイト・ザンブレノの「ヒロインズ」を思い出させる。「ヒロインズ」に出てくる女性は、男性芸術家のミューズとしてあがめられるが、その間、言葉を奪われ、好奇の目にさらされ、やがて精神のバランスを崩し、捨てられる。マリアもそうだったのかもしれない。そして、その死すらも消費される。わたしは、マリアなら死を作品として公表することを望むだろうと思うんだけど、そうなのかな。それは、マリアじゃなくて、ケアリーならなんじゃないのかな。わたしが、自分を取り戻せなかったマリアを弱いと表現する部分があるけど、長年他人を演じて生きてきて、行動も思考もケアリーだったマリアが、俺たち4人はもうケアリーから手を引くからって、5年は生活できる金だからって渡されて、それでもケアリーとしてしか生きられなかったマリアを弱いというのは、残酷だなと感じた。だって、4人はケアリーを作り上げている間も、ケアリーの作品で稼いだお金で、自分の顔と名前で作品を作り、評価を得ていた。でも、マリアはマリアとして評価されることはなかった。マリアのこと考えると悲しくなる。

さっきも書いたけど、著者の他の作品も読みたい。著者の書く、女性の生き方、嫉妬、焦り、仕事をしていく上での女性の困難さなどが、等身大で感じられて、とても共感できた。